良さん(父)の話 5.座礁
昭和の始めの頃、尋常小学校と尋常高等小学校が義務教育であった。
小学校は6年、高等小学校は2年であり、万14歳で義務教育は終わる。
良さんの成績は、悪くもなかったし、近衛兵になる夢もあったから、
良さんの兄や姉やと同じように、進学を希望していた。
しかしある事件のため、諦める事を強いられた。
祖父の船が座礁し、何人かの漁師が命を落としてしまったのである。
当然、祖父や曽祖父は、遺族への保証や何やらで、
実家を除く田畑を売り払う事となる。
それまでの地主を祖父に、船頭を父にもつ良さんにとっては、
かまどがひっくり返った様な、降って来た災難であった。
タクシーで昼間っからカフェーへ行ったのとは真逆の生活である。
かわいそうなのは、女学校へ進学していた父の姉だった。
学校を辞めさせられたのだ。
父も食い扶持を捻出すべく、卒業してすぐ上の国の中外鉱山で働く。
鉱夫としてでは無く、事務の仕事だったそうだ。
良さんは、まだ少年だったから、船がどの辺で座礁したのか?
何人亡くなったかは、聞かされていない。
経済的に苦しいのは分かったけれど、祖父たちはそれ以上の心配をかけたく
なかったのだ、と言う。
私が中高生のとき、おまえは勉強しろ、しろって怒られるが、お父さんは、
勉強したくても出来なかったんだぞ、、、って
酔って帰ってきては必ず言われた。
私には返す言葉も無かった。
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